小説投稿サイト「ステキブンゲイ」で募集しておりました、第二回ステキブンゲイ大賞の結果を発表いたします。
ステキブンゲイ大賞は、小説投稿サイト「ステキブンゲイ」から、新たな「ブンゲイスター」を輩出するためのコンテストで、募集期間は2021年4月19日~2021年10月31日まで。応募作品数は、993作品となりました(最終選考までの経過はこちら)
結果は下記の通りです。
大賞:
『WASHOKU ~コイ物語~』 塚田浩司
受賞コメント
受賞作は、高校生が和食の大会に出場する物語です。実在する大会でグランプリを受賞した萩原彩音さんに取材して書きました。
取材はしましたが、自分の職業が料理人だということ、描いている時にTHE FIRSTというオーディション番組にハマっていたこと、お店の献立に鯉料理を取り入れ始めていたことなど、執筆当時の自分が詰まっているように思います。その作品で作家デビューできることはとても嬉しいです。
もしもどんな作家になりたいですか? そう聞かれたら迷うことなく『売れる作家』と答えます。
自分は日本料理屋の経営者です。売上がなければお店を続けられないことはこのコロナ禍で嫌というほど実感しました。これを作家に置き換えるとやはり売れなければならないと強く感じます。美味しい料理を出してお客様に喜んでもらう。それと同じように、作家は面白い小説で読者様を喜ばせる。そして本を出し続ける。そんな作家になりたいです。
そして、ステキブンゲイ大賞のコンセプトである文芸スターになります。文芸スターになることでステキブンゲイに関わる皆さんに恩返ししたいと思っております。
準大賞:
『幸福の森』 千年砂漠
受賞コメント
この度は「第二回ステキブンゲイ大賞」におきまして準大賞という身に余る光栄な賞を頂き、誠にありがとうございました。
十代半ばよりずっと小説を書き続けて参りましたが、どの作品も賞にあと一歩届かない事の繰り返しでした。今回の受賞は、諦めず挑戦し続けた事に対してのご褒美のように思います。
ステキブンゲイサイト運営の皆様、ステキブンゲイ大賞の審査員の皆様、私の受賞作をお読みくださった全ての方々に、厚く御礼申し上げます。
審査員特別賞:
『マリーはなぜ泣く』 おかちめんこ太郎
受賞コメント
このような賞をご用意頂き身に余る光栄です。
受賞の知らせを頂いたあとに、気持ちを落ち着かせようと綾瀬はるかさんの経歴をグラビア画像と共に紹介する動画を見ていたところ、彼女もホリプロスカウトキャラバンで『審査員特別賞』を受賞していたと知り、なにか運命めいたものを感じております。
女優ははるか、ブンゲイはおかちめんこと言われるような存在になることを目指し、今後も精進していく所存にございます。
読者賞(閲覧数を基準に選ばれる賞):
『ナナミと田中と煙草の火』ナカタニエイト
受賞コメント
この度は読者賞という素晴らしい賞をいただき、正直驚きしかありませんが、誠にありがとうございます。
初めての長編小説で荒削りな部分も多いですが、たくさんの方に楽しんでいただけたことが何よりも嬉しいです。
これからも皆様の心に響く物語をお届けできるよう頑張ります。
末尾となりますが、選考委員の皆様、ステキブンゲイ運営・編集の皆様、並びに賞に携わられた全ての方々、そして、家族、友人知人に心より感謝いたします。
■ 審査員長 中村航の総評・選評
ステキブンゲイ大賞も第二回を無事終わり、まずは応募していただいた方に、心から感謝いたします。ありがとうございました。
選考は一次に始まるわけですが、つくづく難しいものだ、ということを第一回に引き続き思わされました。応募作はそれぞれが力作で、作者にとっては大切で、唯一無二の“作品”です。千に近いそれらを数点に絞っていく選考は、身を切られるような気にもなりました。至らない点も多いですが、書籍化を目指す、文芸のスターを輩出する、といった視点で、続けられる限りはこのコンテストを続けていきたいと思いますので、今後ともどうぞよろしくお願いします。
そのなかで最終選考まで残った五作には大きな拍手を送りたいです。
大賞となった『WASHOKU~コイ物語~』は、ともかく題材が強かったです。新しい題材、今まで書かれてこなかった題材、というものはそれだけで価値があります。作者の筆力も高く、丁寧に取材されているのが伝わってきました。青春小説として読みやすくて弱点の少ない小説ですが、タイトルは改題したほうが良いと思います。書籍化に際しては、改稿にも大期待したいと思います。
準大賞の『幸福の森』は、不穏な空気観があって、ホラー小説としては秀逸でした。大賞に並ぶ小説でしたが、序盤の読みづらさが選考会では明確な弱点として、不利に働いてしまいました。構成力や描写力に富んだ作品で、読んでいると深い森のなかに誘われたような豊かな読書体験を味わえました。
審査員特別賞の『マリーはなぜ泣く』は、勢いがあって個人的にはとても好きでした。パンクをパンクとして描いているので、小説としては弱点があって当然ですが、関係ないような気もします。クソみたいな俺の歌を聴いてくれ! というアティチュードで、今後も書き続けてほしいです。
『純不純文学』は一つの作品である連作短編というより、似たようなテーマを扱った短編集になってしまっていたかもしれません。作者の筆力は高く、中には抜群に面白い作品がありました。各小説のなかで出てくるモチーフに、作者の人生経験を思わせるリアルさがあり、そこに強く惹かれました。
『飛び地のジム(完全版)』は超大作で、作者の意図が最初から最後まで行き届いているのに感心を超えて、尊敬の念すら覚えました。読む人を選ぶ作品ですが、そのぶん、好きな人には確実に刺さる小説だと思います。架空の作者の架空の作品を翻訳した作品を読んでいるような不思議な感覚になりました。
【選評】
■ 加藤千恵(歌人・小説家)
最終候補作はいずれも、レベルの高いものだったと思います。
その中でも、大賞となった『WASHOKU~コイ物語~』を推しました。完成度の高い青春小説で、読みやすく、読後感も爽やかでした。少々ご都合主義なところも見受けられましたが、二人の主人公はじめ、登場人物たちのキャラクターも良さがありました。タイトルは一考の余地があるかと思います。
他の作品にも触れさせていただくと、『マリーはなぜ泣く』は、ストーリーやキャラクターは魅力的なのに、すべてが過去の説明のように書かれている点がひっかかりました。エッセイならいいかと思うのですが、小説は説明ではなく描写であってほしいです。何もかもがいつのまにか進んでいた感じで、乗り切れなかったのが惜しかったです。
『純不純文学』は、「翡翠の部屋の鍵」がよかったです。ラストにも驚かされましたし、こちらをもっと長い枚数で読みたかったです。短篇連作形式をとっていますが、連作にしている理由づけが弱いように感じられました。各話のタイトルも、記憶しづらいものであるのはネックかと思います。
『幸福の森』は、序盤が読みづらく、内容をつかむまでに時間を要しました。途中からはとてもおもしろい展開だったので、もう少し読みやすさを意識したものであったほうがいいかと思います。佐賀氏の担当編集者たちの関わり方には最後まで疑問が残ってしまいました。彼らが森で時間を過ごしながらも、(一応は)普通に社会生活を営んでいけるのはなぜなのか、納得しきれませんでした。
『飛び地のジム(完全版)』は、評価にもっとも悩みました。わたしの評価は受賞作に次ぐものでしたが、枚数オーバーもあり、受賞までを強く推薦することはできませんでした。ただ、設定の緻密さやストーリー展開など、かなりの魅力を含んだ作品であることには間違いありませんので、また少し形を変えて目にすることができるように願っています。
■ いぬじゅん(小説家)
「WASHOKU~コイ物語~」塚田浩司
最終選考に残った作品のなかでいちばんエンターテイメント感がありました。 東京少女のオーディションと和食グランプリをリンクさせていて、鯉料理も活きている。桜井潤のヒーローっぽいがうぬぼれもあり、無邪気な性格がよく描けています。本当の意味での悪人が登場しないため、安心して最後まで楽しむことができました。決戦における視点の切り替えが成功しているとは言えず、そこだけが惜しい点だと思いました。どの年代の方にも楽しんでもらえるすばらしい作品だと思います。
「幸福の森」千年砂漠
津田卓也を通じ、人間の弱さと闇が描かれています。陰湿とした森の情景描写、主人公が弱りながらも幸せに満ちていく様子は映像として見えているようでした。主人公に寄ったり、時には遠くで見つめたりと、著者の筆力の高さとカメラワークには驚かされました。惜しくは、行頭の処理が一定でなかったこと。ただ、それを補うくらい物語はおもしろかったです。最後の選択のシーンの空気感がすばらしく、「あなたならどうするの?」と問いかけられているような気がしました。
「マリーはなぜ泣く」おかちめんこ太郎
運命なんてほんの少しのボタンの掛け違いであっという間に景色を変えていく。若き日の焦燥感、得体のしれない情熱に突き動かされる様子がよく描かれていました。最初にゴールが設定されてからさかのぼるため、回顧録を読んでいるような感覚になりました。そのため五年付き合っている彼女の存在や、年の取り方に説明不足を感じます。リアルタイムで進行していれば、読者はより物語にのめり込めたのではないでしょうか。「バックパッカーズ・ゲストハウス」でも才能を感じたので、新たな作品を楽しみにしている作家のひとりです。伊東や大小籠包というキャラの描き方が秀逸で、特に最後の朝子の反応はすばらしかったです。
■ 増山明子(明正堂書店)
「WASHOKU~コイ物語~」
とても読みやすかったです。素直に面白かった。料理も佐久鯉こくという料理も描写がわかりやすくて良かったです。卵焼きの出汁のとり方から料理が美味しそうだった。潤と彩音のパートが代わる代わる出ていて、飽きずに感情移入できたのではないかと思った。それぞれが何に悩んで目標に向かって行くのがとてもわかりやすく家族、友人、助けてくれる人たちそれぞれのドラマがうまく作られていた。潤や彩音のキャラクター作りも良かった。宗太もいい味を出していると思う。私はとっても好きな作品でずっと面白い面白いと思いながら拝見した。
「幸福の森」
はじめの描写が丁寧すぎて、頭に入ってこなくてどうしようと思っていたが、星新一のような不思議な設定かと思いきやホラーテイストの作品で卓也がクレイジーな主人公だったので清々しかった。幸ちゃんを前半耽美に後半グロく描いたらより面白いと思った。楽しかった。
「マリーはなぜ泣く」
実は好きです。乱暴なようで良くできていると思いました。登場人物の名前もいいと思います。読ませる文章で才能あると思いました。ロックだなあと思いました。かっこいいです。
「飛び地のジム」
面白かったです。ジムと周りのクレイジーで面白く哀愁がある文章が良い。複雑に場面や登場人物が入り乱れるので、頭に入らなかったということではなくて、途中からはじめからもう一度読みたいと思う作品だった。パワフルで良いと思う。
「純不純文学」
どれもフェチズムとエロスを文学に乗せて描かれていて面白かった。絢爛たる花束を錦秋の良き日、君が私は好きです。題材が読み手の個人の好みとしか言えないので短編で好きの割合が多ければ良いと思った。