2021年4月19日、小説投稿サイト「ステキブンゲイ」の公式YouTubeチャンネルにて、ステキブンゲイ大賞の結果発表をいたしました。
ステキブンゲイ大賞は、小説投稿サイト「ステキブンゲイ」から、新たな「ブンゲイスター」を輩出するためのコンテストで、募集期間は2020年4月~同年10月31日まで。
応募作品数は、1,293作品となりました。
賞の内容は、「大賞」(賞金30万円と書籍化決定)が1作品。「優秀賞」(担当編集がつき、書籍化に向けてバックアップ)が数作品。募集期間中のページビューおよびユニークユーザー数がもっとも多かった作品に送られる「読者賞」(担当編集がつき、書籍化に向けてバックアップ)が1作品。
結果は下記の通りとなりました。最終選考に残った三作品は、今後、作者と編集の二人三脚で、出版を目指していきます。最終選考に残らなかった応募作品についても、原作紹介のような形で、メディア系の会社にプレゼンしていく予定です。
また、第二回ステキブンゲイ大賞の募集も開始いたします。詳細は下記URLよりご覧ください。https://sutekibungei.com/contest2
大賞:該当作なし
優秀賞:
『正直な空白』 一ノ瀬 縫(『君がくれた時間をいま、私は』改)
『四度目のうぶごえ』森 春子(『長い長いアヴァンのあとで』改)
読者賞:
『生きて欲しいに決まってる』作道 雄(『人生の満足度、測ります』 改)
また、YouTubeチャンネルで発表動画を公開いたします。
こちらも合わせてご覧ください。
配信日時:2021年4月19日 20時
動画URL:https://youtu.be/uQ3yI875Dto
選考委員:
中村航(小説家)
加藤千恵(歌人・小説家)
いぬじゅん(小説家)
鈴木収春(クラーケン出版 編集長)
増山明子(明正堂アトレ上野店 書店員)
三枝美保(ポプラ社 編集者)
ステキ編集部(鈴木・中田)
※ 一次選考〜四次選考はステキブンゲイ編集部、五次選考はステキブンゲイ編集部と中村航で行いました。
・ステキブンゲイ 中村航の総評
ステキブンゲイ大賞総評 ステキブンゲイ大賞を立ち上げて一年、なるべく情報をオープンにしながら、運営を進めてきた。このたび無事、最終選考を終えるに至り、応募していただいた皆様、ご助力いただいた関係者各位には、心より感謝している。
最終選考の結果、『四度目のうぶごえ』と『正直な空白』に優秀賞を贈ることになった。またPV・ユニークユーザー数が全作品で一番多かった『生きて欲しいに決まっている』が、読者賞ということに決まった。
文芸のスターを輩出する、というのが、この賞のコンセプトだ。ぜひ大賞受賞作をだしたい、という思いがあったのだが、選考委員の総意として、どうしてもそれに至る作品がない、という結論になった。単行本として出版するには、大幅な改稿が必要となる、というのがつまり、大賞に至らなかった理由になる。
とはいえ最終選考に残った三作品には、それぞれ大きな魅力があり、今後、作者と編集部の二人三脚で、出版を目指していきたい(最終選考に残らなかった作品についても、原作紹介のような形で、メディア系の会社にプレゼンしていたりしています)。
今後ともステキブンゲイを、どうぞよろしくお願いします。
【選評】
■ 加藤千恵
「四度目のうぶごえ」
三つの中で、もっとも高く評価した作品だった。 テーマも珍しいものでありながら、けして突飛すぎないし、文章が読みやすくまとまっている。 大賞にというのも検討されていたが、肝心の母親パートが、余談的に感じられてしまったのと、 個人的意見として、新刊の刊行で、桃果が穏やかになるというのがあまり納得できなかった。 子どもたちのキャラクターが魅力的だったので、そちらをメインに書いたものを読んでみたいと思った。
「正直な空白」
冒頭から引き込まれ、するすると読んだ。続きが気になる、力を持った作品だった。就活やアプリなど、興味を持たれやすいテーマが随所に登場していたのも魅力的だった。ただ一方で、後半の展開は、やや駆け足気味に感じられ、急に置いていかれたような印象を受けた。 キャラクターの一貫性(タカメの序盤のコンタクトのくだりはやや浮いていたのでは?)や、 展開を丁寧に書いていくことができたのなら、もっと素晴らしい作品になるだろう。
「生きて欲しいに決まってる」
非常に難しいテーマに挑戦している、意欲作だと感じた。登場人物が多く、それぞれに気になる部分が生まれるものの、それが完全には満たされないまま、別の話にうつってしまうのが残念だった。 たとえば透のキャラクターは、彼の父親含めとても魅力的なものだと思うし、それだけで一つの小説として成り立たせてもよかったのかもしれない。 また、実在の団体である厚生労働省を用いたのが、書く上での勇気を感じた一方、粗も目立ってしまった。 さらにフィクション色を強めてみたものを読んでみたかった。
■ いぬじゅん
「四度目のうぶごえ」
読者の読みやすさを意識する高い文章力で、家族それぞれの想いが表現できていました。三兄妹のキャラクターも描き分けられており違和感がなく、最終選考の作品のなかで一番まとまっています。悲壮感が漂わず最後まで楽しく読むことができました。願わくば、もう少し個性の感じられる展開や結末なら、と。
タイトルについては再検討が必要で、原題よりも悪くなっていると感じます。悲壮感が漂わず最後まで楽しく読むことができました。
「生きて欲しいに決まってる」
世界観が独特で、特に物語の前半では内から絞り出したような文章に心が動かされました。エピソードもよく考えられていて、バディものとして楽しめます。
各エピソードのクライマックスは急ぎ足になり地の文で説明しがちになっているため、各話ごとの読了感があっさりしている印象です。世界観はいちばん好きでしたが、設定を受け入れられるかどうかで分かれると思います。
「正直な空白」
新しい仕事として説得力がありおもしろかった。描写力が高く、映像としてスムーズに頭に浮かびスピード感もあります。
アプリについても、読者が「ありえそう」と思える依頼人を出すことで違和感なくページをめくることができました。
物語後半の展開に難ありの印象です。通り魔や病気は伏線がない、もしくは弱いため、置いてけぼりになる読者が出るかもしれません。設定や内容もおもしろいので、ラストに向け仕掛けや伏線を織り込めばさらによくなると思います。
■ 鈴木収春
「正直な空白」
主人公の同級生が家庭科室に籠もるところなど、印象的なシーンが一番多かったので推しました。実際に同種の時間切り売りアプリは完全に一緒ではないですが存在していて、そっちはもっとシビアなのかなとも思いますが、困惑するような依頼が来るリアリティと面白さがありました。
■ 増山明子
「四度目のうぶごえ」
エッセイ作家である母と3人の子供のお話。子供の頃のエピソードをメインに書いていると実際の子供の成長が早いと読者も感じているので、とてもおもしろい題材だと思いました。人気のコミックエッセイなどを頭で想像しながら読んでいました。洋子と3人兄妹それぞれの章で4人の悩みや魅力をきっちり書いていて引き込まれました。作家の家族の悩みはありますが、突き抜けたキャラクターがいないのに読ませます。家族の再生というほど深刻ではないけど、どこの家庭にもある悩みは共感できます。洋子が書いたあとがきがクライマックスにとても輝いて引き立っています。
家族ってそういうものだよなあと嫌なことも良いこともニコニコしながら拝見しました。
とても良かったです。ありがとうございました。好きです。あとお父さんが実は昔は格好良かったとかだったら萌えます笑
「正直な空白」
主人公のタカメが地味で真面目で最初不運に見舞われるところから入るのは面白かったです。一人ひとりのお話もきちんと作られていてそれぞれのドラマがタカメを巻き込んでいてよかったと思います。
ナルセの章で彼の言葉だったりなぜタカメと出会ったのかがわかり、悲しいだけではなく彼が光も落としていってくれたのが良かったなあと思いました。良かったです。
「生きて欲しいに決まってる」
自殺を防ぐお話。面白かったです。年配の方向けに良いと思いました。お話も長いので映画みたいでした。みんな生きて欲しいですよね。
■ ステキ編集部・鈴木
「正直な空白」
昨年来のコロナ禍で、多くの人々が「仕事」や「働き方」について考える機会が増えています。ですから、就活に失敗したまま大学を卒業してしまい、就職浪人どころか無職の肩書しか持たず社会に出ざるを得なくなったタカメの心細さも、同じ境遇ではなくとも多くの人に理解してもらえるでしょう。それを掴みとして読み手を物語に引き込むことに成功しています。
ナルセとの出会いで思わぬ「何でも屋」的なアルバイトを始めたタカメが、ナルセや周囲の人間、かかわった客たちに触れることで価値観を変えていく姿が自然に描かれていました。
物語の最後に、タカメは大きな喪失の悲しみを味わうことになるのですが、それさえもタカメの成長には必要な要素であったと読者にも伝わると思いますし、物語を通してそれを乗り越えられるタカメになっていると読者に確信できるだけのエピソードが積み重ねられていましたので、大きな希望とちょっぴりの切なさを持った、読後感のいい結末になっていたと思います。
「四度目のうぶごえ」
実際、最終の 3 本の中ではいちばん粗がなくまとまっていると思う。構成も 1 話(章)ごとに視点者を変えて、キャラごとの個性や問題、見せ場を作っているが、それらもまとめてひとつの流れとしてほとんど話を停滞させずに進めている。また想いのすれ違いでわだかまっているだけで、悪人が出てこないので読み心地が良い。 三兄妹の振り分けが、「調停役の長男(長子)」「素直になれない長女」「ちゃっかりした末娘」とステレオタイプではあるものの、「15 年の間コミックエッセイで私生活を明かされてきた」という前提があり、そのうえで形成された人格という設定が咬ませてあるのでありきたりとは感じられなかった。母・洋子の性格も、重くは受け止めるが深刻にはならない天然さがあり、それが事態を良くも悪くもするスパイスになっていたと思う。そのほか編集者、長男周り、長女の彼氏などのキャラも、出番が短くとも印象に残って単なる書割的ではなかった。
■ ステキ編集部 中田
「正直な空白」
全体的に、テンポの良い作品。登場人物の会話もちょうど良い長さ、状況説明の文も比較的分かりやすくかつ想像しやすい程に具体的に書かれていて、全体的にとても読みやすい作品だと思った。
アプリでの代行業を通して【タカメ】が成長、変化していく姿に惹き込まれたし、読み終えた後は感動した。物語最初の、上手く行ってない状態を「透明人間」と表しているのも面白い。また、自分がちょうど年齢が近いというのもあってか、【タカメ】をはじめとした登場人物に、共感できるポイントを多く感じた。就活中の心境変化や、ちょっとした出来事に対する考え方・感じ方に対して「分かるなぁ」と思う点が多く、人物の描き方が非常に上手いと感じた。
気になった点としては、途中、登場人物の名前の表記が変わっていた部分(→ タツ子? タキ子?)があった点と、後半の展開が少し早かったように感じた点。【タカメ】が通り魔に襲われたり、【ナルセ】が死亡するという展開が唐突にやってきた感じがあった。【ナルセ】の心境等がもう少し分かるような描写があると、感じ方も多少変わるのでは?
ただ、こういった出来事は現実でも唐突に起きるので、そういった意味では良い具合にリアル感はあったのかな~とも思う。また、【タカメ】視点の物語だと考えると、敢えて【ナルセ】の心境を深く掘り下げない今のままでも全然面白い。